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2009年 06月 11日

「悲鳴を上げる中国農業」/続

昨夜から雨、明日は晴れるが明後日は再び雨

09/06/08の日経ビジネスOnlineに「悲鳴を上げる中国農業」の続編が載っている(参照)。
前回は、事実上、日本の「食糧基地」となっている中国農業の現状に焦点が当てられていた。
今回は、より広い視点から取り上げられている。中国農業の抱える問題は、もはや中国一国の問題に
止まらず、「東アジア全体の食の安全」のためには「東アジア農業共同体」を視野に入れた対応が不可欠
だと説いている。
私は東アジアや東南アジア各国の食糧自給体制を調べているところですが、どの国を見ても、中国ほどに
青果物や加工食品の供給能力のある国は、ASEANを含む東アジア周辺にはありません。裏を返すと、中国
は海外に対する重要な食料部分の供給体制を作り上げている。そこには、もちろん企業も介在しています。
ところが、こうした中国を中心とした農作物の供給体制が崩れてしまうと、日本だけでなく東アジア全体の
食卓に多大な影響を与える。


米国のサブプラム問題に端を発する金融危機は、瞬時にして世界に波及した。新型インフルエンザの波及
もまた「水際作戦」そのものが児戯に等しいことを証明した。それほど世界はグローバル化し、緊密に結び
つき、好むと好まざると、我々とは殆ど無縁の(と思っていた)出来事が世界全体に波紋(波の広がる「場」の
性質に対応した時間で。ネットを介する世界では殆ど瞬時に)を広げる。
食糧供給体制の綻びは、これほど急速には広がらないとしても、「多大な影響」を受けることは間違いない。
仮にこれが、食糧投機などと結びつけば、あっという間に食卓から食材が消え、あるいは何倍にも価格が
跳ね上がるなどということも、単なる杞憂ではない。
餃子問題をきっかけに、いったんは中国産農産物は水面下に沈み、我々の眼には見えにくくなったけれど
中国農産物を排除しては日本人の胃袋は、もはや満たせないほど深く依存している。

高橋教授の話の中から興味深い指摘を、摘記しておく。
・(前回の)記事を読んだ日本の方は驚いたのかもしれません。ただ、中国ではなんともない光景で、何も
驚くことではありません。あの記事に書いてある状態が普通なんですよ。

恐らく、重箱の隅を突っついて、悪いところだけあら探しをしている、という印象を持った人もいるでしょう。
もちろん、全体がそうだと言ったつもりはありません。ただ、その事実が一部であるか、全体であるか、あの
巨大な国でそれほど大きな問題でしょうか。

僕は、現在の中国は江戸と明治と大正と昭和と平成が、時系列的にではなく空間的・平面的に並んで
混在する国
だと見ている。殊に、最近の中国のように急速に先進国にキャッチアップする国では、著しい
不均等性は避けられない

日本人はなぜ今の今まで中国農業の根源的なところに目を向けてこなかったのか、と思いますね。
 日本で作っているものについては、「トレーサビリティー」と言って、生産者の顔だとか、土壌だとか、農薬
散布だとか、消費者は知りたがります。それなのに、なぜ輸入した農産物については現場を見ようとしない
のか。おかしいでしょう。

(「トレーサビリティー」といっても、表面的・形式的なもので、末端では、いざ問題が発生したときの「責任逃れ」
のための書類作りが主眼ではないかとさえ思える。しかも年を追う毎に点検項目は精緻化し、膨大になり、
それに比例して実質的に無内容になり、形式化していく

中国の農業経済学者は農村調査をほとんどしないんですよ。つまり、農村なんて学者が行くところじゃない
と思っているんですね。それもあって、日本人もなかなか行かないんですよ。

○中国農業の持続可能性について、(1)環境面、(2)土地所有制度、(3)労働力、(4)政府のサポート、
(5)企業という5つの視点から問題点を指摘する。
◆環境面
中国は慢性的な水不足国で、1人当たり世界平均の4分の1しかありません。さらに経済成長が続けば、
水資源は工業と生活に回っていくので、農業・農村は今まで以上に水不足になるでしょう。

中国は農地灌漑率が50%ほどしかありません。
土壌の汚染を取り除くだけでなく、地力を維持したり、高めたり、機械を入れて生産性を高めたりするには、
土地改良や基盤整備も必要になります。ただ、文化大革命と人民公社の解体とも大きく関係しますが、土地
基盤整備事業全体がうまくいっていないんですよ。

◆土地所有制度と基盤整備
1982年以降、農家生産請負制になり、農業生産は増えました。ただ、その一方で、誰が農地投資をする
のかという大事な問題が忘れ去られてしまいました。..農地投資は所有者がすべきものですが、中国では
農地所有者がいったい誰なのか、はっきりしていません。..農民に土地に投資するようなお金はないし、
自分のものでないものにどうして投資が必要かとなる。

年を取れば、農地は原則的には村民委員会に返さなければなりません。村の人口が増えれば、農地使用権
を分け与えなければならない新規の相手が増える。自分の土地に所有権がないためですね。投資しても他人
の手に渡ることが分かっていて、どうして投資意欲がわきますか。

この問題は古くて新しい。日本では723年に「三世一身の法」が作られた。班田収受法の下では、土地は
形式的に公有だった。政府は、開墾を奨励するために、用水溝や溜池を新設して開墾した田は三世代まで、
既設の灌漑施設利用して開墾した田は開墾者が死亡するまで土地を収公しないことにした。ところが収公
期限が近づくと耕作意欲が衰えて開墾田が俄かに荒廃した。このため僅か二十年後には墾田永代私財法
を施行せざるを得なくなった

日本の農村には用水路と排水路、集落排水設備や下水道が整備されているため、家庭の雑排水が用水路
に流れ出ることはありません。ところが、中国ではそういった基盤整備ができていないため、雑排水やし尿が
ため池などに流れ込み、河川を汚し、その行き先である湖沼を汚染する。

◆労働力
就業人口を見ると7億7000万人に達しています。この7億7000万人のうち3億人が農業就業人口。
さらに、そのうちの2億人を農民工が占めています。農業就業人口3億人のうち2億人は余剰。農村には
いなくてもいいわけですよ。

農業技術を教育する制度が欠けています。..農村のリーダー教育と言った途端に、反政府運動を心配する
人も出てくるからね。..(村民委員会は)本来は農民の自主的な組織で、農業から生活までまとめて面倒を
見る組織のはずだったんですけど、実質的には地域統制、農民管理の組織になっていますね。ですから、
農民は下からの草の根的な活動をしにくいんですよ。

◆政府のサポート
国が制度的に農業を支えていく仕組み作り。例えば、農業技術を農民に伝える仕組み、農産物の検査
制度、卸売市場制度、温度調整のきく農産物保管施設、輸送機能の向上、農村金融政策などがあるで
しょう。

◆企業
上海周辺や杭州、広東などの沿岸部の農村は比較的裕福。あの辺りの農家の中には、自分で事業を
したり、勤めに出たり、農業をしていない人が結構いる。じゃあ、誰に農業をやらせているかというと、田舎
から出てきた農民を安い賃金で働かせている
。沿岸部の農民の家に行くと分かりますが、4階建て、5階建て
の家があるんですよ。「何でこんなに部屋があるのか」と聞くと・・・。そう。出稼ぎ農民向けのアパート経営。
農作業の賃金を払い、農地を耕してもらい、揚げ句に家賃を取っている。これは、農農格差、つまり農農間
の搾取、支配と被支配、主従関係が土台になっている。今起きているのは、農民層の新たな解体現象で
しょう。都市と農村だけでなく、農民同士の間で格差が生じ始め、農民の一部が解体し、最下層に陥落する
原因を作っている。
一種の不在地主制、または新たな小作制度

これから半世紀というスパンで考えてみれば、中国との関係は、食糧のみならず、政治・経済・文化・軍事・
教育・環境など、様々な面で避けて通れぬ課題(障壁となるか、共同体的関係となるか)になることは間違い
ない。部分的には、すでに空洞化している日米関係が、依然として「日本の外交の機軸」という言い草は、
自らの頭と足で立とうとする自立心の欠如を表白しているに等しい。外交戦略の思考停止状態!!
食料自給率の向上にしても、単なる形骸化された目標に過ぎず、実質的に破綻している。
自ら農業者という立場で云えば、農業への追い風があれば歓迎はするけれど、日本人の胃袋をどう満たすか
という視点で考えれば、市場経済にのみ先導されて、野放図に中国農産物に依存するだけで、東アジア全体
の戦略的視点を全く欠いた食料政策は(これは対米従属外交の裏返しだ。「政策」というのも愚かだが)危うい
というほかない。
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by agsanissi | 2009-06-11 09:47 | 参考記事


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