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農のある風景/作業日誌/ようこそ!!荒木農場へ

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2007年 07月 28日

土を考える/化学農法・続々々/12

どんなに優れた意見も、必ず時代の刻印を背負っている。
有吉佐和子さんの「複合汚染」が、行過ぎた科学主義に警鐘を鳴らし、人々に公害や環境破壊
のもたらす災厄に真摯な目を向けさせ、それを事実上放置した政府、科学の名において擁護
した科学者の欺瞞を引ん剥くのに、70年代初頭に果たした功績は揺るぎない。
僕は、もはや公害・環境問題を放置することは許されないという世論を確乎たるものにする上で
果たした有吉さんの偉大な功績を忘れない。しかし個々の具体的問題では、発言の社会的・
技術的条件を忘れて、その結論だけを担ぎまわれば、どんなに一面的で誤った方向に突っ
走る可能性があるかということを、少々過激に・演説調に表現するために、有吉さんを貶める
ようなことを敢えて書いた。そして卑小な追従者は、概ね社会的・技術的条件を忘れて、結論
だけを有難がるのに忙しい。

さて、もとに戻ろう。僕は何かを主張したいと思っているわけではない。ただ考えている。
思考錯誤の過程であり、一生、それで終わるかもしれない。僕は、幸いにも科学者ではない
から、何かの学説を立て、それを後生大事に守らなければならぬという詰まらぬ意地を張る
必要もない。ただ考え、自分の思いに沿って耕し、畑を観察し、土を思い・考えていれば良い。
間違ったと思えば、誰憚ることなく、訂正すればよいし、訂正しなければ自分の首を絞める
だけだ。そのための思考及び試行錯誤の過程だ。農業を自然の大地を実験場とする科学的
営みと心得ているが、それでも傲慢な科学者のように、時に時代を深刻な災厄に陥れる程の
無謀なことはやっていないから、間違えば深刻なしっぺ返しを先ず受けるのは自分だから、
多少は大目に見てもらえるだろうか。
「耕す生活」の「連作障害対策としての輪作」の中で引用したことのある「図解土壌の基礎
知識」(参照)が「化学合成肥料ばかりを使った場合の弊害」を簡単に、分かりやすくまとめて
いる。
有機物の消耗、土壌の酸性化、酸性化に伴う不活性化・活性化(例えばリン酸が土壌粒子と
結合して作物が吸収できない状態になったり、逆にアルミニウムやマンガンが活性化して作物
に過剰吸収されたり)、微量要素の欠乏、土壌動物の偏りなどだろうか。但し微量要素や土壌
動物(殊に微生物について)は、初版出版当時(1974)には研究上の制約もあって、さほど
その重要性については触れられていない。
その上で、土壌を保全するためには、西欧の昔の二圃式輪作、三圃式輪作、ノーフォーク式
輪作が如何に合理的な作付け体系か、また有畜畑作農耕の果たした役割が大事だったかを
説いている。輪作体系が打ち捨てられ、有畜畑作農耕が断ち切られ、化成肥料にのみ依存
した野菜の連作、これを過剰に促進した畑作農耕の軽視(小麦・ダイズは安い外国産を輸入
すれば良い)と主産地形成政策。要するに科学と政治の合作によって土壌の荒廃は促進され、
百姓はただその舞台の上で、舞台と観客にマッチした踊りを踊るしかなかった。

なぜ化学肥料ばかりを使うとまずいのか?
こういうことではないかなと、僕が、今の時点で考えていることを最後に書いておこう。
自然界には物質循環がある。自然界を構成するいろいろな物質が結合したり、離合したりして、
その姿態を変容させる過程である。酸素、炭素、窒素などの元素が巡る姿である。自然界に、
やがて生物が現れ(微生物、動物、植物)、物質循環に代謝循環という新たな、特異な循環
過程が参加した。代謝循環とは、言い換えれば生命活動である。生命活動であるとはいえ、
それは物質循環の一部であり、大循環サイクルの部分循環・小循環サイクルである。
この部分循環サイクルが参加したことで、大循環サイクルの過程には変化はなかったが、その
サイクル・スピードが加速された。そこに人間という高度な意識を持った動物が参加することで、
このスピードは異常に加速され、かつ様々な偏倚現象を引き起こした。とはいえ人間の自然界
でのすべての営みは、自然界の物質循環の一部であり、大循環サイクルを一時的に撹乱させ
る小循環サイクル以外のなんでもない。
このイメージを前提にして作物栽培を考えてみる。
自然の土壌には、その風土的環境に応じたそれぞれの生産力がある。土壌の肥沃度といわれ
る。肥料は、この自然によって課せられた土壌の制限性にある程度の余裕を与えてくれる。
しかし雑草や土壌動物の死骸の肥料化を待つにせよ、人糞尿や家畜糞尿を利用するにせよ、
手工業的規模に留まる限り、自然による土壌の制限性に対する自由度は高が知れている。
これは、言い換えれば、海や土の持っている復元力を、本質的に撹乱させるほどのものでは
ない。土壌学の言葉で言えば、土壌の緩衝能力・解毒作用を失わせるほどのものではない。
しかし現代科学とその技術は、自然の大循環サイクルを復元不可能、少なくとも人間的レベル
の時間サイクルでは復元不可能なほどの不可逆点を超えうるほどに高度化した

作物栽培に関して云えば、土壌の肥沃度の機能的要素と思われるチッソ、リン酸、カリを抽出
し、それを投入することで作物生産性を飛躍的に拡大した。しかしそれは当初錯覚したように
土壌の肥沃度そのものを高めたわけではなく、土壌の能力を絞り尽くすことで、却って土壌を
疲弊化させるものでしかなかった。
なぜそうなるか、ならざるを得ないかの分析は科学に任せる。取り敢えず作物栽培における
微量要素、土壌微生物の本質的役割の軽視を指摘できる。(続く)

by agsanissi | 2007-07-28 07:00 | 考える&学ぶ


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