2008年 01月 15日

食料自給を考える/農業の工業化または工業的農業/6

食料自給の問題とはやや離れるが、もう少し、工業的農業の問題にこだわって見よう。

工業的農業の拡大とともに、食品由来の疾患の蔓延が指摘されている。
google で「食品由来疾患」と検索すると、約16万件ヒットする。大別すると
・疫学的アプローチによる疾患の分析
・食品の製法・流通・保存など食品側からの分析
・食生活の変化に伴う疾患予備軍(生活習慣病)の増加など食文化的な分析
僕が、主に関心を持っているのは、主題そのものからして後二者が中心。

04 年11 月、メキシコシティで開催された世界保健研究フォーラム年次大会で
工業的畜産はつぎの世界的な健康危機か?」と題する報告が発表された。
主な論点を摘記すると、
・食肉の「工場」生産体系の始まり
第二次世界大戦後、経済的に最も豊かな国々は、増大する食肉需要を、莫大な頭数の
家畜を戸外や密閉施設内で飼育することで賄ってきた。工業的畜産の時代の始まりで
ある。抗生物質、成長促進剤、穀物中心の不自然な飼料の投入は、当時から現在に至
るまで牛のフィードロット(肥育場)、養鶏場、養豚場に欠かせないものとなっている。

・工業的畜産施設の問題点
工業的畜産がもたらす大量の家畜排泄物は、大気と水を汚す恐れがある。工業的畜産
施設では、家畜が生まれてから屠殺されるまでの間に、疾病の治療や成長促進のため
大量の抗生物質が与えられる。家畜への抗生物質の過剰使用は、耐性菌の出現と関連
があるとされている。工業的畜産はこのほか、食品由来感染症、新興の人畜共通感染
症、肥満、糖尿病、心臓病など非感染性疾患の増加に直接、間接の影響を及ぼしている。

・今後も食肉需要はアジアを中心に急増する
国連食糧農業機関(FAO)によれば、畜産分野の成長が最も急なのはアジアで、その次
が中南米及びカリブ諸国である。畜産物の消費も、今後15 年間、これらの地域で最も
上昇する見通しである。2020 年には、発展途上国の国民は、1980 年代の2 倍に当る、
1 人当り39kg 以上の肉を消費するようになる。しかし、世界の食肉の大半は、引き続
き先進「工業」諸国の国民によって消費され、その1 人当りの消費量は、2020 年には
100kg に達するとみられる。これは牛1/2 頭、ニワトリ50 羽、豚1 頭に相当する量で
ある。

・工業的畜産施設の拡張に伴う環境汚染の懸念
工業的畜産は今日、アルゼンチンからブラジル、中国からインド、南アフリカから東欧まで、
世界中で営まれている。世界の肉牛の43%はフィードロット(肥育場)で育てられる。工業
的畜産ではしばしば、不自然な穀物飼料と、増体を早め過密施設での疾病蔓延を防ぐため
の抗生物質が与えられる7)。世界の豚とニワトリの半数以上が工業的畜産で飼養されている。
畜産は先進工業国が優位を占める産業であるが、途上国でも急速な成長と生産の集約化が
進行している。
これらの地域では、世界で最も人口密度が高く成長の急な都市の近郊や、ときに都市の中
にも多数の工業的畜産施設があるため、周辺の水、大気、土地の汚染が懸念される。

・工業的畜産とは?
工業的畜産とは、産肉量を最大化しつつコストを最小化する、集約的「生産ライン」方式で
家畜を飼養するシステムである。工業的畜産を特徴づけるものは、高密度及びまたは
密閉飼育、強制的な高い増体速度、高度の機械化、低い必要労働量である。具体的な例
としては、採卵用バタリー養鶏、肉用子牛のクレート飼いなどがある。工業的畜産という
言葉は、後に意味を拡大して、遺伝子組み換え動物を使った畜産も含むようになっている。
○ニワトリ
世界の採卵鶏47 億羽のうち4 分の3 がバタリー養鶏で、1 ケージに10 羽も詰め込まれた
状態で飼養されている。ケージは何段にも積み重ねられ、中にいるニワトリはほとんど身動き
ができない。毎年、世界で440 億羽のブロイラー鶏が肉用に育てられている。これらは
ケージには入れられないものの、成長を早めるために内部を薄暗くした不毛な鶏舎で密飼い
されている。工業的畜産のニワトリはしばしば跛行を起し、心臓発作で死ぬことも多いが、
これは、不釣り合いに大きくなった体を心臓が支え切れないためである。
○豚
世界の豚25 億頭の半分が工業的畜産で飼養されている。工業的畜産で飼養される雌豚の
多くは、ほとんどの時間を狭い枠に閉じ込められて過ごし、向きを変える、巣をつくる、
地面を掘るなど、豚本来の行動をとることができない。ストレス下にあるこれらの雌豚は、
しばしば人工授精によって、生涯のうちに何腹もの子豚を出産させられる。
○牛
牛の多くは幼齢期を牧場で過ごすが、屠殺の数週間前になると、増体のためにフィード
ロットに集められ、不自然な穀物飼料を給与される。過密で不衛生な環境で過ごすため、
食肉処理施設に到着するときは牛が排泄物にまみれていることもしばしばである。

・食品由来疾患の実態
食品由来疾患には誰もがかかる可能性がある。しかし、とりたてて問題にしたくない症状
(下痢)を特徴とするために診断も報告もされないことが多く、事の重大性が認識され
にくい。食品専門家が見落としているのは、食品由来疾患は世界で最も広がっている健康
問題の1 つで、WHO の推定では、報告された数の300 ~ 350倍は発生しているという点で
ある。米国では毎年、食品由来疾患のために約7,600万人の患者、32 万5,000 件の入院、
5,000 人の死亡が発生している。このうち、既知の病原体によるものだけを数えると、
患者1,400 万人、入院6 万件、死者1,800人という数字になる。

・食品の生産工程に伴う原因
FAO によると、畜産の商業化と集約化の流れは、食の安全にかかわる様々な問題を生み出
している。工業的畜産施設の、過密でしばしば不衛生な環境と、不適切な排泄物処理は、
動物の疾病や食品由来感染症の蔓延を加速する。たとえば、大腸菌O157: H7 型は、家畜
排泄物で汚染された食品を人が食べることで、動物から人に伝わっていく。東アングリア
大学のイアン・ラングフォード博士によれば、過密な環境で飼養された家畜は、しばしば
糞便まみれで食肉処理施設に到着することがあり、それが食肉中の微生物の増殖と拡散の
下地をつくっている。博士によると「問題は、消費者が食品に十分気を配るかどうかでは
なく……食品の生産工程にある」
(以上は「工業的畜産はつぎの世界的な健康危機か?」からの引用)
この報告書では、素材の製造工程のみの「工業化」が指摘されているが、実際には素材の
生産から、それが加工され我々の口に入るまでの一連の工程全体が、工業的な品質管理を
受けていることは、まるで機械部品のようなマクドナルド店員の対応振り(20年ほど入って
ないから最近はどうなのか知らないが...)にも現れていた。

やや古い資料だが、
・国立医薬品食品衛生研究所安全情報部の「食品安全情報」(04/01/07)の中の
食品微生物関連情報は、OECD諸国の食品由来疾患の状況をその典拠とともに、簡単に紹介
している(参考)。
07/12にWHOは
・Foodborne disease outbreaks: Guidelines for investigation and control
と題する164頁ほどの報告書を公表しているが、まだ読んでない(参照)。


04/07に、WHO は食品由来疾患を大幅に減少させるために、調理中または食事中に、
家庭と職場で実践すべき簡単な「5つの鍵」戦略を発表した。この5つの鍵とは、手と調理器具
を清潔に保つこと、生の食品と加熱済み食品を分けること、食品には完全に火を通すこと、
食品を安全な温度域で保存すること、水と生の食材は安全なものを使用すること等である。
参考
これらは適切な指摘で、確かに「Key strategy」には違いないが、「食品の生産工程」その
ものに由来する疾患には如何ともなし難い。

風土と食文化の不可分の関係という視点から、食生活の急速な変容が及ぼす社会的な影響
には深い関心を払っているが、食品由来疾患の視点からは、食肉の「工業的製法」のみなら
ず、肉食と草食(あるいは穀物食)との違いにも注目する必要がある。
「工業的畜産はつぎの世界的な健康危機か?」には、次のようは調査報告が載っている。
05 年、イングランドとウェールズという工業的畜産が支配的な地域で実施された調査は、
人に感染する食品由来疾患の「乗り物」、つまり媒介食品に注目したもので、貝や果物から
鳥肉に至るまで、各種の食品の比較が行われた。そこから、つぎのような結論が得られた。
 ・鶏肉による食品由来感染症がつねに疾患の増加原因であったのに対し、植物性
  食品に由来する疾患は、調査集団に軽微な影響しか与えていなかった。
 ・食品由来疾患がニワトリから伝わるリスクは、調理済の野菜または果物の
  5,000 倍であった。
 ・レッドミート(牛、小羊、豚の肉)のリスクは低かったが、死亡への寄与率は
  高かった。
 ・食品由来疾患の影響の低減は、主として鶏肉の汚染防止に依存する。

植物性食品については、いわゆる「生活習慣病」との関連でも食物繊維の積極的な摂取が
薦められているが、食生活の変化に伴って実際には減少傾向である。
古いものだが、参考資料として、取り敢えず
高コレステロール血症の改善、虚血性心疾患および糖尿病の予防のための
食物繊維の適正摂取量
」を挙げておく。
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by agsanissi | 2008-01-15 11:47 | 考える&学ぶ


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