2008年 01月 20日

食料自給を考える/世界の食糧市場/9


昨日の話の続きで、A=世界とした場合の問題を考えてみよう。この場合、購買力ある需要に
対しては自給率は、常に百で安定しており、在庫率に応じて価格の高低があるだけだ。
グローバリズムは、端的にこの立場に立っている。グローバリズムの究極的な終着点は、
国家的・地域的障壁が取り除かれ、地球全体がやがて開かれた「市場」の競争下に置かれ、
資源及び労働力は最も「合理的」に配分され、そのお蔭を以て世界はますます豊かになると
いう想定だろう。だから食料自給などという阿呆なことを考えるより「普段から輸入ルートを確保
しておくほうが供給不足には有効だ」となる(池田blog「食料自給率という幻想」参照)。

世界をひとつの「共同体」と見た場合(社会主義体制の崩壊とIT革命による国境を越えた情報の「共有」、金融の自由化などは、部分的にはそれを実現しているかに見える)、世界的な富
及び分配の偏在、その結果としての一握りの先進諸国の飽食と他方での飢餓状態という矛盾
を依然として内包しているが、グローバリズムはこの矛盾を緩和するか、それとも先鋭化するか?
グローバリズムは、部分的には国民国家の枠組みを超克しているが、この枠組みそのものを
廃止(「止揚」と表現したいところだが)したわけではない。従って食料の交換と分配をめぐる
争いは、複数の多国籍企業と国家とを交えた複雑なせめぎ合いになるのだろうか?そのせめぎ
合いは緩和される見通しなのか、それとも熾烈化するのか?

昨年12/11に、「温暖化によって何が起こり、どう対応できるのか ―農林水産業に与える影響の評価とその適応策―」と題する第28回農業環境シンポジウムが開かれた(参照)。その講演の
一つに、「これからの日本を取りまく食糧事情」と題する丸紅経済研究所の柴田明夫氏の
レポートがある。当日「配布資料」の要約(参照)を見ると、
世界の食糧市場を見るうえでの「六つの視点」が提起されている。
・均衡点の変化
・世界の食糧在庫の変化
・中国のインパクト
・特定作物への依存
・急速に普及する遺伝子組み換え作物
・三つの争奪戦の始まり

ここには簡単なレジュメしか載っていないが、11/28に農水省主催で東京国際フォーラムで
開かれた「アグリビジネス創出フェア2007」での柴田氏の講演要旨(「バイオ燃料と世界食糧市場」、参照)から、補足的説明を付加しておく。柴田氏は、他に去年の7月に「食糧争奪」という本
参照)を出版している。まだ読んでないが、以下に紹介する内容に比較して特記したい点があれ
ば、改めて紹介する。

・均衡点の変化
▽原油価格が高騰し、ここ数年は金属資源の価格も2~4 倍に高騰している。こうした動きに
ついて私は、長く続いた「安い資源の時代」が終わりを告げたとみている。価格の均衡点が上方
にシフトし、「高い資源の時代」に入った。
▽食糧はこれまで、水と太陽光と土地さえあればいくらでも再生産可能な無限の資源とみられていた。しかし水の制約、土地の制約を考えると、食糧も有限資源化していく流れの中にある。その中で、いままでの価格帯が上方に大きくズレ上がる形で、価格の均衡点の変化が起こってくる。

・世界の食糧在庫の変化
▽世界の穀物の年間消費量に占める在庫比率はいま、1970 年代以降で最低のレベルまで下がっている。これは、中国の影響も大きい。また世界で商業生産されている食糧は約150 種類。そのうち半分以上はコメ・小麦・トウモロコシ・大豆・イモ類など4~5 種類作物に大きく依存する構造になっている。農業の近代化の成果でもあるが、生物の多様性の面からみると脆弱な構造といえる。しかも世界が頼りにしているコメ・小麦・トウモロコシ・大豆がいずれも需給逼迫傾向にある。
▽原油価格の高騰でガソリン価格が上がり、代替燃料としてバイオエタノール、バイオディーゼルの需要が増えている。これらを考え合わせると、3 つの分野で争奪戦が始まる可能性が高い。
ひとつは、限られた穀物をめぐる国家間の争奪戦。2 番目は、エネルギー市場と食糧市場に
おける穀物争奪戦。3 番目は、水と土地をめぐる工業・農業間の争奪戦だ。こういう中で価格の均衡点がズレ上がる可能性が高い。
▽シカゴ市場における穀物価格をみると、過去20 年問にわたって「均衡点の変化」といえる
ような大きな動きは起こっていなかった。それがいま起こり始めている。小麦の価格が昨年秋口から高騰し、1996 年に記録した過去最高値を抜き去った。今年に入って1ブッシェル当たり9㌦60 ㌣まで上がった。最近は8 ㌦前後で調整されているが、この先、何が起こるか。大豆・トウモロコシ価格に伝播し、大豆と小麦の価格差が縮まる。
▽小麦の高騰は、世界的な小麦在庫の不足が原因だ。大豆の方が割安となれば、大豆が
買われる。実際、大豆は1ブッシェル11 ㌦近くまで高騰している。家畜にとっては、トウモロコシが主食、大豆粕がおかずという補完関係にある。大豆の値段が上がると、トウモロコシ価格も引っ張り上げられる。このような上方修正が全体として始まっている。
▽原油価格は1960 年代まで、1 バレル2 ㌦前後だった。1970 年代のオイルショックを
経て、1980 年代はじめには瞬間的に40 ㌦まで上がった。20 倍になったわけだ。上がり過ぎた価格はその後修正され、1980 年代後半から1990 年代までは20 ㌦弱が落ち着きどころだった。いまでは90~100 ㌦に迫るところまで高騰している。実に5 倍だ。
▽この間の穀物価格はどうか。穀物価格も1960 年代までは低位安定だった。1973 年の
食糧危機を経て穀物価格は上方にシフトしたが、その後約30 年にわたって、小麦であれば
1ブッシェル3 ㌦程度、トウモロコシなら2 ㌦程度を中心とする値動きに落ち着いていた。いま小麦は9 ㌦に迫ろうとし、トウモロコシは4 ㌦というレベルにきている。全く新しい価格均衡点への変化が始まっている。 (続く)
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by agsanissi | 2008-01-20 14:11 | 考える&学ぶ


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