2008年 01月 21日

食料自給を考える/世界の食糧市場/10

続き、
・小麦需給の逼迫
▽すべては豪州の大干ばつによる小麦価格の高騰から始まった。北半球でも、欧州、ウクライ
ナやカザフスタン等の黒海沿岸諸国、またカナダも2 年続きの干ばつに見舞われ、生産量が減
っている。
▽小麦の期末在庫率が急速に落ち込み、1973 年の食糧危機の際の期末在庫率(21.2%)
を大きく下回るレベルまで低下している。全体としては消費量も生産量も伸びているが、消費の
伸びに生産が追いつかず、世界の在庫が取り崩されている状況にある。臨界点を超えつつある
状況の中で豪州の大干ばつが起こり、ここにかなりの投機マネーが入ってきた。
▽米国の小麦は今年わずかながら増産されたものの、エジプト、バングラデシュ、フィリピン、
インドなどが先を争って米国小麦の買い付けに走っている。その結果、来年は米国の小麦在庫
が1960 年代並みの低水準まで下がってくる。小麦価格が上がればトウモロコシ・大豆に伝播
する。小麦の2 割程度は家畜のエサに回っているためだ。
▽トウモロコシは大半が飼料用で、いままでは小麦との間で値段の引き下げ合いをしていた。
しかし小麦在庫がこれだけ減ると、飼料に回る部分がなくなり、トウモロコシのエサ用需要が増
える。そのトウモロコシはエサ用だけでなく、バイオエタノール向けの新しい需要も増えている。

・食料需要とエネルギー需要の競合
▽米国のトウモロコシは今年、歴史的大増産となった。エサ需要、エタノール原料需要の増加
を見越して農家が作付けを大幅に増やしたためだ。大豆の作付けを減らしてトウモロコシを増
やした結果、大豆生産量はガタ落ち、トウモロコシは過去最高水準に達した。だからといって
トウモロコシ在庫が来年に向けて大きく積み上がる状況にはない。一方で大豆は来年に向け、
期末在庫率が7%台まで急速に落ち込んでいく。
▽小麦は世界的な需給逼迫傾向があり、大豆も米国の減産によってタイトになる。トウモロコシ
の生産量は増えたが、バイオエタノール向け原料需要が急増し、米国では昨年ついに輸出需
要にほぼ並んだ。今年は輸出需要を大きく上回る構図になっている。
▽ブッシュ大統領のエネルギー政策もエタノール需要を後押ししている。今後10 年のうちにガ
ソリン消費量を二割削減し、代わりにトウモロコシ原料のエタノールを中心とする再生可能燃料
の生産を350 億ガロンまで増やすという(昨年で7 倍だ)。350 億ガロンのエタノールを作るた
めには、米国の全トウモロコシ生産量をエタノール向けに回す必要がある。
▽世界の穀物需給の流れは、期末在庫率の動きに集約して表れる。期末在庫率をみる場合、
3つの視点が重要だ。どういう方向に向かっているか、スピードはどうか、レベルはどうか、の3
つだ。これを当てはめると、在庫率は下がる方向にあり、2000 年に30.2%だった在庫率が、
いまでは15%に半減するという早いスピードだ。そしてこの比率は、食糧危機が起こった
1973 年の期末在庫率15.3%をも下回るレベルとなる。今後の穀物需給にはかなりの注意が
必要だ。

・中国のインパクト
▽中国の実質経済成長率は今年上半期で11.5%で、年間を通しても11%台半ばを維持する
勢いだ。中国の経済成長は、世界の資源の消費や価格の動きと重ね合わせることができるほ
どインパクトが大きい。
▽中国の食糧で無視できないのはトウモロコシと大豆だ。どちらも国内需要が急増している
作物だが、中国政府は、トウモロコシは増産して国内で賄おうとしているが、大豆は輸入を増や
している。ブラジル、アルゼンチンという大豆生産国が現れたためで、大豆輸入は3000 万㌧
を超え、世界の大豆貿易量7000 万㌧のうち半分近くが中国の輸入に回っている。
▽トウモロコシは米国に次ぐ輸出国だったが、輸出余力が落ち込み、輸入国に転じるのではな
いかともいわれる。トウモロコシは米国が世界の生産量の4 割、貿易量の6~7 割を占め、
中国が輸入国に転じれば米国から輸入するだろう。その米国ではバイオ燃料向け需要が急増
し、輸出余力が落ちている。中国が輸入を始めたら、限られた量のトウモロコシをめぐる争奪戦
が始まる。
▽食糧をめぐるいまの環境は、食糧危機前後と類似点が多いが、スケールアップされている。
当時はソ連(現ロシア)が大量の大豆をシカゴから買い付け、価格が一気に高騰したが、今回は
中国の動きがこれに置き換わった。

・特定作物への依存
▽世界で大量に商業生産されている作物は約150 種類あり、すべて足すと44 億㌧だ。コメ、
トウモロコシ、大豆という特定の作物に依存している。農業近代化の中で生産性を上げてきた
が、特定の作物に世界が大きく依存するという生産構造のぜい弱化を招いた。その特定作物の
すべてが需給逼迫傾向にある。
▽1973 年の食糧危機後の場合、世界は穀物の作付面積と単位収量を増やし、生産量を増
やすことで対応できた。しかし今回は状況が異なる。世界の人口が増え続ける中で、穀物の
収穫面積は1980 年をピークに減少傾向に転じている
。また、かつては灌漑農業を導入する
ことが単位収量の増加につながったが、これも頭打ち傾向にある。
▽食糧需給をみる場合、「水資源はふんだんにある」という前提で計画が立てられていた。需要
が拡大すれば価格が上がり、供給が増えて需給が均衡するというモデルだが、今後は水の
問題が深刻にかかわってくる。
▽淡水利用できる水資源は地球全体でもごくわずかにすぎないが、工業化・都市化が進む
ほど、河川の水は工業用水等に使われる。農業利用できる部分が減り、地下水をくみ上げる
から、地下水が枯渇したり水位が低下する。穀物生産の増加と灌漑用水面積の増加はパラレ
ルで推移しており、灌漑用水が今後増えるのは難しい状況にある。
▽小麦1㌧を生産するのに必要な水の量は1150 ㌧、大豆は2300 ㌧、牛肉なら1 万6000
㌧に達する。水自体は増えない中で、水の需要量はどんどん増えている。将来の食糧需給を
みる上で、今後は水の制約という条件を決して無視するわけにはいかない

・遺伝子組換え作物のリスク要因
▽ブッシュ大統領は遺伝子組み換え作物を導入して収量を上げるとうたっているが、どうするか
というと密植をする。密植すれば普通は害虫が発生するが、遺伝子組み換え作物は食べた害
虫が死ぬから収量が上がる。しかしこれは、大量の水資源を使った略奪型農業という側面もあ
る。遺伝子組み換えは商業化から10 年余りで、評価が定まっていない。水の問題など新たな
リスク要因が顕在化する中、本当に安定的なのか疑問だ。これを頼りに食糧生産の拡大を図る
のはリスクが大きい。
▽水の制約、土地の制約、地球温暖化といった変化の中で食糧供給が増えにくい。一方で食
生活は豊かになり、需要が減らない。2000 年以降の食糧需給の特徴は、旺盛な消費の伸び
に供給が追いつかない構図だ。そこに大干ばつ等が重なって需給が逼迫している。今回の需
給逼迫はかなり深刻と言っていい。
▽日本の状況は、食料自給率が40%を切り、農業就業人口・農家戸数・作付面積とも減り
続けている。世界の食料需給が逼迫傾向にある中、食糧輸入を通じて大量の水と農地を輸入
し、国内では耕地470 万㌶のうち1 割近くが耕作放棄されている。水資源も他国は5~6 割
を利用しているが、日本では地形や気候の制約もあるものの2 割しか利用されていない。

◆「高い資源の時代」を迎え、水と土地の制約を受け、食糧もまた有限資源化していく中で
今後、長期にわたって国際的な穀物争奪戦が熾烈化していくとすれば、いままで
・高い関税障壁によって高価格を維持し低生産性農業を保護する農政が国際的非難攻撃
を浴びせられたのと同様に、これからは
・国内の水資源や土地資源を手付かずに放置したまま、金に飽かせて国際市場から食糧を
買いあさり、その何分の一かを無造作に廃棄している食料輸入大国に非難攻撃が浴びせら
れる時代が来ないと、果たして言い切れるだろうか?!
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by agsanissi | 2008-01-21 10:11 | 考える&学ぶ


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