2008年 01月 22日

食料自給を考える/食糧市場の変貌/11


大した脈絡もなしに気の向くままに読んでいる。一昨日辺りから
1.【環境危機をあおってはいけない】/ビョルン・ロンボルグ/03年6月
2.【グローバリゼーションと日本農業の基層構造】/玉真之介/06年3月
3.【食糧争奪】/柴田明夫/07年7月
4.【フェルマーの最終定理】/サイモン・シン、などの本を読んでいる。
グローバリゼーションと食糧争奪は読み終わった。環境危機はものすごく面白い本だけれど、
脚注がやたらに多く(2930もある!)、それを丹念に拾っていると、繰り返し中断されて不愉快
だから、素読と精読で二度目を読んでいる。

【フェルマーの最終定理】の最初のほうに、科学理論と数学理論の違いが出てくる。科学理論
は、手に入る限りの証拠にもとずいて「この理論が正しい可能性は極めて高い」と云えるだけな
のだ。いわゆる科学的証明は観察と知覚をよりどころにしているが、そのどちらもが誤りをまぬ
がれず、そこから得られるものは真実の近似でしかないのである、と指摘した上で、B・ラッセル
の言葉を引用している。
逆説的に見えるかもしれないが、精密科学はどれもみな近似に支配されている

社会科学は、精密科学には程遠い。まして市場分析などというものの多くは、「科学」というも
おこがましく、思惑と欲に引きずられた雑音に等しく、変動グラフの上げ下げと共に一喜一憂を
繰り返す後追い分析か、短期的変動を「長期」と錯覚するか長期的変動の変わり目を「短期」的
変動と軽視するか。しかも不思議なことに、一つの流行の流れが決まってしまうと、それを補強
するような証拠ばかりが次々と挙げられる。
地価高騰の真っ最中には、まだまだ挙がるという挙証が自信たっぷりに語られるし、仮に最初
の変わり目に遭遇しても、次のリバウンドを期待して奈落へと引きずり込まれていく。
【環境危機をあおってはいけない】の最初のほうに「環境論争では、すごく短期のトレンドをもと
にして、一般論が展開されるのをよく見かける」と批判している。実はこの本は、これでもか、
これでもかというほど執拗に短期的トレンドを「一般的」傾向とする「環境論者」の思い込み
小気味良く追究している。
気象変動に関するニューズウィークの記事が引用されている。
地球の気候パターンが激しく変動を始めており、こうした変動が食糧生産の大幅な減少につな
がるかもしれない暗い兆候が現れつつある。これは地上のあらゆる国にとって深刻な政治的問
題を引き起こす。食糧生産の低下はごく近い将来、ひょっとするとほんの10年ほど先に始まる
かもしれない。

さて、この引用をした上でこう批判している。
今日僕たちが聞く温室効果の心配と実によく似てはいるのだけれど、実はこれは1975年の
記事で「冷えゆく世界」と題されている。当時はみんな、地球寒冷化を心配していたのだ。

どうです、付和雷同が本能のマスコミは勿論、科学者を含めて自分の忘れっぽさに反省を促し
てくれそうな話題豊富なこの本に魅力を覚えませんか?!

さて、望遠鏡を顕微鏡と取り違えたり、その逆に微視的なものを巨視的に錯覚したり、とかく
空間的・時間的スケールの縮尺を適正に測れないのが、我々の観察眼だけれど、様々なレベ
ルのスケールがあり、スケールの取り方によって、真実はまるで違って見えることがあるものだ
と認識しているのはまだましなほう。自分の見ているものが唯一の真実などの思い込みは迷惑
この上ない。無駄話はこれくらいにして...。

【食糧争奪】の中から、一昨日・昨日の引用と多少はダブル点もあるが、興味を引かれた二三
の指摘を紹介しておく(引用文は、簡略化のため多少書き換えた部分もあるが、文意は変えて
いない)。

・穀物市場は「薄いマーケット」/三つの脆弱性
第一に、生産量に対して貿易量が10-12%に限られ、輸出国の国内生産量の変動を増幅
する形で貿易量に反映される傾向がある。
第二は、主要な輸出国が米国、カナダ、オーストラリア、南米、中国に限られている。
第三は、穀物輸入国も日本、韓国、台湾などのアジア諸国に限られている。
このような脆弱性を持つ穀物市場に、最近、新たな構造変化が起きている。①穀物需給の逼迫
傾向が強まっている。②小麦市場に、新たに旧ソ連圏などの新たな輸出国が台頭しているが、
その生産量は天候に左右される傾向が強く、市場の安定性には寄与しない。③伝統的な穀物
輸入国のEUに加えて、中国、インドが新たな穀物輸入大国に転じつつある。
31-32.p

・穀物メジャー
70年代初めに、旧ソ連への大量穀物輸出をきっかけに、その存在が知られた。80年代に米国
の農業不況下で企業再編が進み、90年代にグローバル化の進展を背景にスケールメリットと
中核企業への特化を狙いとした再編が加速した。
最近の穀物需給構造の変化を受けて、第一に、伝統的な輸出基地であり圧倒的な穀物生産力
と輸出力をを持つ米国内で集荷力と販売力を強化して、国内市場での専有率を高める。第二
に、近年、穀物生産・輸出量が飛躍的に拡大しているブラジル、アルゼンチンでの集荷体制及
び輸出拠点を確保すること。第三は、日本、韓国、台湾、東欧諸国に加えて中国、東アジア諸
国に進出して販売拠点を築くこと。以上三点が、穀物メジャーの戦略だ。
45.p

・「高い資源時代」
世界経済のけん引役が、90年代までの日・欧・米の先進国から、00年代に入ってからは中国
を中心とする世界人口の四割を超えるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など新興市場
国に移ったことを背景に、「高い資源時代」に均衡点が変化した。世界経済を牽引しているのは
人口八億人弱の先進国ではなく、人口約三十億人のBRICs諸国の経済発展である。90年代
までは、経済がサービス化・ソフト化されていたため、いくら成長してもエネルギー・資源需要に
は直決しなかった。BRICs諸国の成長は「もの作り」であり、そのためのインフラ整備である。
それは地球規模でのエネルギー・資源多消費型経済発展であり、需要ショックといった形で
世界の石油需要の急増と直決する。
63-4.p

・水問題
地球上の水の量は13.8億キロ立法㍍、内淡水は0.35億(2.5%)、その内三分の二は南極の
氷雪で、比較的利用しやすい河川・湖沼の水は0.01%にすぎない。148.p
世界の年間の水使用量は、1950年1350キロ立法㍍から00年5189キロ立法㍍に約4倍
近くに増加した。一方、人口一人当たりの水供給可能量はアフリカでは20.0から5.1千立法
㍍に、アジアでは9.6から3.3に減少した。
148.p
世界の農業地域で水不足が進行していくにつれて、今後、農産物貿易は作物生産に必要な水
の量によって決定されることになりそうだ。水不足がすでに深刻なアジア諸国は、最大の食糧
輸入国になり、自らは工業製品の最大輸出国になる可能性が高い
。151.p

・フードシステムの構造変化
生産された農水産物が、実際に「食品」として消費者の手元に届くまでには、様々な段階を経ている。この中間過程の複雑さは、ある程度まで「A」の歴史的な広がりに対応している。A=家族の場合は、中間過程はせいぜい「調理」を想定すれば充分だが、食肉や小麦粉その他諸々の添加物がマクドナルドのハンバーグとして我々の口に入るまでの一連の中間過程は、流通・加工・製品流通・販売と多段階の複雑な経路を辿っている。一般に、これは迂回生産と呼ばれ、
迂回経路が複雑になるほど付加価値が高まると見なされている(以上は、僕の文)。
この一連の過程全体を、仮にフードシステムとして捉えると、このシステムの
入口の農業生産額は10.1兆円(+漁業2.9兆円、2000年の数字)、出口の飲食料最終消費
額80兆円。最終消費額の規模は80年に44兆円→90年に64兆円→00年に80兆円と着実に
拡大してきた(この部分については「我が国食料市場をめぐる環境変化」の二頁「食の生産・消
費のフローチャート」を参照せよ)。
90年代のグローバリゼーションの下で、フードシステムに構造変化が起きていることを、次の
ように指摘している。
①外国産原料資源(半製品)の輸入が急増する一方、②国内農業(生産)が縮小、③さらに、消費面でも外食産業・中食産業の成長などを背景に、日本のフードシステム構造そのものが変化している。具体的には、食品産業の海外生産シフトが加速し、国内産業との分離が進んでいる点である。この結果、日本のフードシステムが海外のそれに一部ビルトインする格好となり、国内農業と食品産業の関係が以前より緩やかになりつつある。
特に、この傾向は冷凍野菜市場で顕著である。日本の冷凍野菜の輸入は、90年の30.5万トンから2000年74.3万トンへと拡大、この過半は中国からの輸入である。一方、この間、国内の冷凍野菜生産量は10.1万トンから9.2万トンに減少するなど、国内での生産・雇用の空洞化現象が生じている。
232.p

2000年時点では、食品産業の海外生産比率は製造業全般(14.5%)に比べて、まだ微々
たるものだが(3.2%)、これは取り残された結果と見るのか、これから大いに伸びる数値と
見るか、見解の分かれるところだ。しかし製造業をはじめ食品産業の出口と中間付近の産業
が、収益率の拡大を求めて海外に移転し、あるいは海外の多国籍企業にビルトインされ、国内
産業が空洞化していくとすれば、取り残された農業分野は「空洞」居住者の格好の住処には
なり得ないだろうか。
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by agsanissi | 2008-01-22 10:04 | 考える&学ぶ


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