2008年 01月 24日

食料自給を考える/食料自給率はなぜ下がった?/13

食料自給問題の周辺部ばかりをウロウロしてきた。そろそろ本丸に攻め込もうか。

日本の食料自給率の長期的推移を見ておこう。基礎資料は農水省の食料自給率資料室の
中 の「日本の食料自給率」(参照)にカロリー及び生産額ベースの自給率推移(昭和35年-
平成17年度)が載っている。推移グラフを俯瞰するには「社会実情データ図録」(参照)の方が
便利で、ここには主要国の自給率推移の国際比較も載っている。

自給率を測るに、カロリー、生産額、穀物自給率その他、何で測るのが適正かという議論が
ある。カロリーで測れば野菜はカロリーが低いからとか、逆に油脂・畜産物は高いとか、その
ためにバイアスがかかるから云々とか、主食である穀物自給率で測るのが適当だとか、いろ
いろ議論がある。いろいろなデータを比較して、目的に応じて、適当なデータを選べば良いし、
拙ければ他のデータと照合すればよいので、予め視野を制限する必要はない。

カロリーベースで「実情データ図録」を見ると、1960年から80年までの20年間に急激に下が
り、80-85年は横ばい、80年代半ば以降、再び緩やかに下がってきている。穀物自給率も
ほぼ同様の傾向。93年に大きく下がったのは、大冷害の年で北東北沿岸部では一粒のコメも
取れなかった(この年の夏に僕は初めて普代を訪れた、あの時の寒々として畑の光景は忘れ
られない)。
自給率低下の長期的傾向は、奇しくもインフレ時代からデフレ時代への転換と一致している。
これは偶然か、何か内的関連があるのか?
一方、自給率の国際比較を見ると、小国と大国、或いは大陸国家と島国、水及び耕地を含めた
自然資源などの要素が、自給率の絶対値を制限していると感ずる。仮に国土面積が同じでも
平野か山岳か、砂漠か森林か、凍土かステップかの違いで自給可能性は全く違ってくる。
また社会経済システムの違いによっても、自給率は制約を受ける。工業の発展が相対的に
低く、農業人口の比率が高い場合は自給率は高くなるし、工業が発展し、社会システムの中で
前々回に触れた迂回生産の比率が高くなれば、また農業の機械化などによって農業生産力が
発展し、農業人口比率が低くなれば、国際競争力に対応した産業特化の割合に応じて自給率
は増幅されて増減する。この面では、池田氏の指摘する素朴な比較優位の議論(12/06の
食料自給を考える/2を参照)も、一般論としては成立する(現在では、「ある国は、その国に
相対的に豊富に存在する生産要素を多用して生産される財に比較優位を持ち、そうでない財に
比較劣位を持つ」というヘクシャー・オリーン理論に取って代わられているが、ここでは深入りし
ない)。

食料自給率の低下を、別の角度から視覚的に表示したものに
「第一回食料の未来を描く戦略会議」の配布資料3「今、我が国の食料事情はどうなっているか」(参照)の中の
・6頁に「私達の食生活の姿は大きく変化した」(昭和40年度と平成17年度の比較、カロリー
ベースの自給率は、この間に73%から40%に低下した)
・10頁に畜産物・油脂類の消費増加に伴う品目別の自給率低下の図示
・12頁に国内農地のみで食料供給する場合の想定メニュー
などが載っている。
また「第二回会議」の配布資料「今、世界の食料に何が起きているのか」(参照)の中の
・8頁に平成18年度のカロリーベースの「品目別自給率」の帯グラフが載っている。グラフの
縦・横を掛けた面積比が、そのまま自給率或いは対外依存率を引上げたり引下げたりする
寄与率を表している。

以上のグラフを見て、直ぐに分かることは、食料自給率の低下の直接的要因は食生活の変化
(急激な洋風化と云っても良い)と、農業生産構造がそれに対応できなかった点にあること。
一般論として、需要構造が変動して、供給体制が対応できなければ、代替品によって置き換え
られ、当該産業は衰退する。逆に供給体制の変革で需要構造が変動し、当該産業の供給構造
が激変する場合もある。需要側・供給側のどっちに変革のきっかけがあろうと、変化は反対側に
及ばざるを得ないし、両者相俟って加速化する場合もあろう。
馬車が鉄道に取って代られ、絹・木綿が化繊に変わられ、天然が合成に変わられ、石炭が
石油や原子力に代わられたように、60年代に始まる約20年間の食生活の急激な変化に
よって日本の農業生産構造も急激に変化した。
・1910年以降の「食生活の変化」グラフ⇒「社会実録データ図録」(参照
・農業生産構造の変化⇒「日本の統計」の中の7-6「農業総産出額」(excelグラフ、参照
視覚的には、もっと適切な構成比グラフが、どこかのサイトにあったけれど見当たらないので、
取敢えず大まかな構成比だけを参考のために表にしておく。単位は兆円、()内は%
(参考に、昭和30年から平成16年度までの農業総産出額の推移グラフを挙げておく)

        総額    米    野菜   果実    畜産
1965    3.17  1.37  0.37   0.21   0.73
              (43.2)(11.7)(6.6)   (23.0)
1980   10.26   3.07  1.90   0.69   3.21
              (29.9)(18.5)(6.7)   (31.2)
1995   10.31   3.05  2.29   0.92   2.58
              (29.6)(22.2)(8.9)   (25.0)
2004    8.79   2.00  2.16   0.77   2.45
              (22.7)(24.5)(8.7)   (27.9)

構成比の変化を見れば、それなりに食生活の変化に対応する努力はしてきた。しかし充分に
対応できず、その隙間を埋めるように外国農産物が流入し、かつ自由化と相俟って国内農業は
敗退した。
また80-85年以降は、食生活の急激な変化は一応収まるが、耕地の縮小、耕作放棄、農業
人口の新たな減少と老齢化などで、国内農業生産そのものが縮小する。特に米の生産調整
及び米価の低迷によって、専業農家が激減し、最近は第二種兼業がほぼ七割(農業収入以外
の所得が中心の農家)を占め、農業総敗退という事態に立ち至って、一段と食料自給率が低下
している。
以上のグラフ及び構成表を俯瞰するだけでも
自給率が半減したのは、単なる都市化の影響ではない。最大の原因は、米価の極端な統制
だ。コメさえつくっていれば確実に元がとれるので、非効率な兼業農家が残り、コメ以外の作物
をつくらなくなったのだ。こういう補助金に寄生している兼業農家がガン
」(参照
という言い草が、根拠のない言い掛り(暴力団並みの難癖ですね)とわかる。
規模別・経営形態別の経営分析や米の生産費のカバー率(販売費が生産費の何%をカバー
出来ているか)を見てみれば、直ぐに分かるが、要するに米生産の赤字を兼業収入でカバー
しているから、兼業農家が生き残っているだけで、「補助金に寄生」など阿呆かとしか云いよう
がない。仮に、兼業農家がコメ生産から総退出すれば、穀物自給率は10%程度に、食料
自給率は20%程度になるのじゃないかな?(続く)
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by agsanissi | 2008-01-24 12:25 | 考える&学ぶ


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