2008年 02月 12日

食生活の崩壊/その裏面

小泉武夫氏の【食の堕落と日本人】は、各章各節の表題を読むと、
中身を大体予測できる。全五章の表題だけ書き抜くと、
1.日本食を食べない日本人は堕落する
2.日本の食の堕落と崩壊
3.美しき哉、日本食の本質
4.日本食の将来
5.この国の食の堕落をいかに食い止めるか、など。

中身は、前に紹介した「高校生相手の講演」(pdf、参照)に多少の肉付けをしただけで、エキス
はこの講演に全部出ている。基本的認識の大筋は悪くはないけれど、やや一面的な誇張が鼻
につく時もある。まあ、我慢できる範囲内だけれど...。

二章の一節に「下ごしらえの大切さ」とあり、
・下ごしらえも味のうち
・むだを出さないことが下ごしらえの心得
・人生に通ずる「下ごしらえ」の大切さ
・学校の授業に「下ごしらえ」の時間を、という内容だ。

最初と二番目の要点は、次の通り。
・著名な料理人と対談したときに、「一流の料理人になるには何が一番大切ですか」という質問
をしたことがある。即座に「一流の料理人というのは気の遠くなるほど下ごしらえの場数を踏ん
でいます。そうやって料理人は育ってくるものなんです。芋の皮ひとつむくにも、魚の鱗一枚落
とすにも、心を込めて何年もやらなければ一流にはなれません。下ごしらえの場をどれだけ踏
んだかですね」と答えてくれた。90.p
・また下ごしらえの心得についてこう語った。「とにかく、無駄を出さないことが下ごしらえの基本
です。大根の先っぽやネギの青葉、魚の粗なんて、今の年季の少ない料理人は捨ててしまう
人が多い。私たちのような昔の料理人は、その部分も材料であると教えられてきたので、大切
に使ってきました。ですから下ごしらえは真剣にならざるを得なかったのです」91.p

こうした心得から見れば、最近の家庭料理(仮に料理として)は反対の極地にいるのか。
・出来合いの加工食品・調理食品・冷凍食品を多用する⇒下ごしらえがない
・下ごしらえがないにも拘らず⇒とにかくむだを出す
・食べ物を大切にしない⇒余ったものや賞味期限切れを無造作に捨てる

堕落の原点は「金があるから買ってくればいいじゃないか」という発想だ(49.p)と
書いているが、まさにその通り。
食材を吟味して集める努力はもち論のこと、食材の下ごしらえも、調理も、調理した食材を大切
にする心も、どれもこれもみんな、金で安直な出来合いの調理食品・冷凍食品・レトルト食品を
買ってくる代わりに、安直に捨て去ってしまった。
金で、品物を買う代わりに心を売ってしまったのか。

その一面が、前回の話題。その反面が今回の話題、すなわち家庭系食品廃棄物。

・「食品廃棄物の発生及び処理状況」(1996、厚生省調査による推計値、参照)によると
総量は1940万トン(内家庭ごみ1000万トン)、焼却埋立て処分が91%、肥料・飼料化は9%
に過ぎない。

・「食品循環資源の再生利用等実態調査報告」(農水省、pdf、参照)によると、
食品産業関係の廃棄物は1100万トン強、内食品製造業500万トン、外食産業300万トン。
01年から05年にかけてほぼ横ばい、やや増加(+4%)。

・「我が国における食品廃棄物処理の流れ」(05/12、pdf、参照)によると、概ね03-4年の
調査で、産業廃棄物480、一般廃棄物(外食産業など)650、家庭廃棄物1200、合計2330、
内再生利用420、焼却・埋立処分1900(81.5%)。但し、再利用の内訳を見ると産業系の
60%、事業系の16%は再利用されているのに対して家庭系は僅か2%が再利用されている
に過ぎない。

○家庭系の食品廃棄物の調査が「食品ロス統計調査報告」(01-05年、参照
世帯別の食品ロス率、食品使用量食品ロス量及び食品ロス率、食品類別の食品ロス率、食品
類別の食品使用量及び食品ロス量、食べ残し・廃棄した理由などを全国、地域別、都市階級
別、農業地域類型別、世代構成別に調査した統計及びアンケート調査

全体としては01年7.7%から05年4.1%に減少し、また複数世帯に較べて単身世帯は相対的
に多い(05年5.0%)。予想外なのは食品利用量は大都市のほうが多いのに、ロス量は町村
のほうが多く、従って大都市(3.5%)よりも町村(4.6)のロス率がかなり高い、また都市と農村
地域を較べると、同じく食品利用量は大都市のほうが多いのにロス量もロス率も農村地域の
ほうが多い。農村を都市的、平地的、中山間的地域に分けるとロス率は3.8、4.8、4.4%など
となっている。食品廃棄物の肥料・飼料などへの再利用率は都市よりも町村が高く、農村地域
のほうが高いが、一人当たりロス量の絶対量は農村地域>町村>大都市の順番になってい
る。

ところで、日本人が家庭で消費している食品の量は1人1日あたり1167グラム、可食部分の
食品廃棄量は1人1日あたり47.3グラム、食品廃棄率は4.1%、ということになっているが、
これで計算すると一人当り年間廃棄量は17.3キロ、人口を一億人として計算すると、
17.3×10^8キロ=17.3×10^5トン=173×10^4トン、すなわち173万トンとなる。
家庭系食品廃棄物が1200万トンとすると、実際にはこの7倍近くを廃棄しているはずだが、
どうなっているの?
考えられることは、家庭からの廃棄量は可食部に対する廃棄量だから、仮にこの部分を含めて
計算すると年間120キロ、1人1日あたり約329グラム、消費量約1.5キロに対して五分の一
強(329÷(1167+329)≒22%)を廃棄していることになる。

一方、食品産業系の廃棄物の再利用率は相対的に高い。「食品+廃棄」で検索すると、幾らも
関連記事を拾ってこられる。
「先端科学技術推進機構」の「食品製造工程から生じる廃棄物の有価物質への転換再生技術」
参照)というのがある。
食品廃棄物から生理活性物質を抽出・分離して、これらを天然物由来の医薬品、栄養補助食品、機能性食品および特定保健用食品として利用する技術と装置の開発、抽出後の残りの食物繊維残さからエタノールを連続発酵生産する技術の開発などを主なる研究目的としている。食品廃棄物は、廃棄物処理技術開発の中で最後に残された大きな地球環境上の解決すべき課題である。食品製造工程から廃棄される食品加工廃棄物(米ぬか、酒粕、ビール粕、ワイン粕、小麦抽出廃液、醤油粕、餡粕、チーズホエー、コーングルテン、大豆粕、おから、ミカン粕、コーヒー粕など)は大部分が焼却されており未利用のままである。」
このプロジェクトの目的は、関西地域の食品製造会社で発生する食品加工廃棄物から、その目的によって、有用成分である生理活性物質(大豆イソフラボン、カテキン類、カプサイシン等)を抽出分離・回収することにより機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品として有効利用し、最終的な食物繊維残渣からエタノールを連続生産する技術(バイオマス技術)を開発することによって、食品製造工程のゼロエミッション化を達成することである。」

食事の外部化が進み、食品産業・加工業や外食産業が栄えれば、当然、食品廃棄物の再利用
は不可欠の社会的再生産過程に組み込まれる。それ自体は、生産の迂回化であり、
それによって産業は栄える。それは本来的な意味での進歩といえるのか?
科学として、確かに「先端的」技術には相違ないとして、機能性食品、栄養補助食品、特定保健
用食品などの氾濫が、果たして食生活の進歩といえるのか?

参考記事:
○食品廃棄の現状について(pdf、参照
環境省、農水省の資料を使って、図表・グラフで、食品廃棄物の現状、
再利用、廃棄の理由など、視覚的に分かりやすくまとめている。
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by agsanissi | 2008-02-12 09:09 | 考える&学ぶ


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