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農のある風景/作業日誌/ようこそ!!荒木農場へ

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2008年 01月 23日

食料自給を考える/閑話休題/12

穀物相場の短期的変動を追いかけた所で、それで自分の畑作物の次年度の作付面積を考慮
するほどの直接的連動性もないし、かと言って「短期的」変動を即「長期的」見通しに読み替え
て、将来の不安を煽るような記事は僕の本意ではないから、あやふやな見通し記事など関心が
ない。とはいえ「食糧市場の動向」に触れたせいか、多少、気になる記事が眼に付くようになった。それに触れる前に、最近、疑問に思っている二三のことを心覚えとして書いておく。

・80年代を境にインフレ時代からデフレ時代に転換した。デフレ時代はいつまで続くのか、
原油高騰、資源価格の高騰を背景に再びインフレ時代に再転換する(した)のか?
・日本もアメリカも膨大な財政赤字を抱えている。アメリカの好景気を支えてきたのは財政
赤字と貿易赤字で、要するに借金で贅沢をして来たに過ぎない。この赤字の積み増しが
いつまでも続くはずはないし、かつてこのような赤字は超インフレによってチャラにされてきた。
事実、「超インフレ時代」がやってくるという予測はいくらもある。
・アメリカのサブプライム問題と株式市況の崩落は、タイムラグをおいたデフレ時代の到来を
告げるのか?とすれば世界的なデフレ時代は、まだまだ続くと見るべきだろう。
・現在の資源高騰(原油、穀物、金、レアメタルなど)は、超インフレ時代の前触れなのか、
それとも資源高騰で世界的なデフレ圧力は一段と強まるのか?
・いわゆる先進諸国とBRICs諸国との対応は、二極分化する可能性があるのか?

僕は、自分で農業を始めてからこの十数年、意図的に外部情報を遮断してきた。余計な雑音
などに眼もくれず、ひたすら深山幽谷で農作業に明け暮れ、自立した生活を確立するよう努め
てきた。作物生理学や農業技術には関心を払ってきたが、農政や農業構造、食料自給など
関心を払ったことはなかった。一昨年は、偶々、目にした投稿をきっかけに「日本に農業はいら
ないか」などを書いたけれど、余りに近視眼の阿呆な論考に腹が立って筆が滑っただけ。
それでも、最近は僕の畑作農業の足元を、いろいろな意味で揺るがしかねない政策変更や
構造変化が身近に起きている。今更、それでジタバタする程のことはないけれど、これから
「農のある生活」を営もうという人には、この構造変化や政策変更は何がしかの重要な意味を
持って来るかも知れない。そんなわけで、多少は農政「天気」にも、眼をくれようかと心配りを
し始めた。とはいえ、十数年のブランクは否み難く、全く見当違いな藪睨みをしているのでは
ないかという懸念は払拭されない。閑話休題の余談なんて変だけれど、以上は余談。

昨日の東京新聞Web版に「水不足、食糧難加速と予測」の記事が載っている。
国際農業研究協議グループ(CGIAR)の傘下の「国際水管理研究所」が各国のバイオ燃料
増産計画などを基に、2030年にバイオ燃料を生産するために新たに必要となる水資源量や
土地を予測した結果、
バイオ燃料生産の急拡大が、ただでさえ深刻なアジアの水資源問題や世界の食糧問題を
さらに悪化させ、貧しい人々の暮らしを圧迫する危険性がある

と警告したというものだ。
一般的に「作物の要水量」(参照)として、水が農業生産の制限要因になることは知っている
けれど、国際的には水の制約が「食糧問題」の隘路になりうると、どれほど自覚しているだろうか、少なくとも僕は「食糧争奪」を読むまでは、そんな自覚を持っていなかった。
水の「制約問題」は、次のような問題を提起する。
・中国の経済成長と食生活の変化で、中国人が日本人並みの「食生活」をする
ようになれば、中国の水不足と相俟って、忽ち食糧輸入大国(今でも充分に大国
だが)に変容する。今度こそ、レスター・ブラウンが提起した「中国人を誰が養うか」
参照)という懸念が、本当の懸念になる可能性がある。
・遺伝子組換え技術は、食糧不足の救世主のように云われているが、「大量の
水資源を使った略奪型農業という側面」持っており、化成肥料と同様に、別の
形で自然資源の荒廃を一段と促進する可能性がある。
・アジアの中では相対的に水資源の豊かな日本は、農業放棄という形での自国
の水資源の浪費と食糧輸入という形での他国の水資源の浪費という二重の浪費
を、いつまで続けられるだろうか?

今日のDiamond on line に「穀物相場の高騰を誘引!非遺伝子組み換えプレミアム」という
記事が載っている(参照)。
昨年は、大豆で約9割、トウモロコシで7割以上が遺伝子組み換えになった。
作付け比率が減りつつある非遺伝子組み換え作物は、遺伝子組み換え作物との分別管理
など手間がかかる。
そのため、輸入元の商社などが穀物価格に数パーセントのプレミアムを上乗せして、米国
の農家に非遺伝子組み換え作物を栽培させてきた。(中略)
ところが、穀物価格の高騰で状況は一変。農家の実入りは3~5倍になり、BMWやベンツ
などの高級車をどんどん買えるほどカネ持ちになった。
そのため、「わざわざ手間をかけてまで、プレミアムをもらう必要はないと考える農家が増え
ている」(商社関係者)のだ。それでも非遺伝子組み換え作物を栽培してもらおうとするなら、
さらにプレミアムを積み増しするしかない。(中略)
ここ数年でプレミアムの額はかつての3倍に跳ね上がった。今年は、さらに3倍になるとの
見方もある。
すでにその兆候はある。一年前、東京穀物商品取引所で、食用に使われる「Non-GMO
大豆」(非遺伝子組み換え)の先物価格が、飼料用などに使われる「一般大豆」(遺伝子組み
換え)を上回る幅は、10%程度だった。
ところが、非遺伝子組み換えの価格が2倍になった今年は、35%程度まで拡大している。
豆腐や味噌などを作る中小食品メーカーには、原材料価格の上昇分を製品価格に転嫁でき
ず、倒産や廃業に追い込まれる企業も少なくないが、今年はさらに厳しさを増しそうだ。


ダイズは、トウモロコシ作付けとの競合で作付け面積が減っている。
「米国産大豆の減産分を埋め合わすことは可能か」という記事(参照)を見ると、一段と厳しい
ようだ。
米農務省(USDA)発表の12月需給報告(WASDE)によると、作付面積の減少に伴い
生産高が前年度の31億8,800万Buから25億9,400万Buまで減少した結果、期末
在庫も5億5,500万Bu(在庫率は18.0%)から1億8,500万Bu(同6.2%)まで引き下げ
られており、2003/04年度以来の需給逼迫状況が下値を強力にサポートしている。(中略)
今年度の大豆逼迫状況を解消するには、トウモロコシに対して大豆相場の水準を相対的に
押し上げ、農家の大豆に対する生産意欲を高める必要がある。しかし、大豆はさび病発生
などのリスクがあることに加え、南米産の生産状況次第で価格が暴落するリスクもあるため、
農家は大豆生産に慎重な姿勢を崩していない。このまま年明け後の面積争奪戦に突入すれ
ば、大豆の作付面積は伸び悩み、一段と需給逼迫リスクが意識されることとなるだろう。


by agsanissi | 2008-01-23 13:09 | 考える&学ぶ


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